人と土の関わりを考える
            ― サヘル地域の砂漠化から ―

                                   田中 樹(京都大学・地球環境学堂)

.講義のねらい
この講義では、西アフリカ・サヘル地域での砂漠化と在来農業技術の調査経験をベースに、
生態環境(特に、土壌)と人間の暮らしとの関わりを知るための視点や具体的な活動のあり方を紹介します。
講義全般を通じて、一般通念の再検証の必要性、
フィールド調査の視点、
現場認識の大切さなどを
意識したメッセージを伝えます。

.講義の概要
 西アフリカ内陸部半乾燥地は、砂漠化の最前線の一つです。
ここでの砂漠化の深刻さは、地域の人々の暮らしを支える
農耕や牧畜、薪炭採集などごく日常的な生業活動により引き起こされる点にあります。
異なる生態環境や社会経済条件の下での多様な生業活動に端を発する砂漠化は、
従来のような「過耕作、過放牧、過剰伐採、乾燥化」など実態不明瞭な原因と
「移動砂丘の形成、裸地の拡大(植生の減少)、侵食に切り裂かれる大地」という
末期的景観を用いるステレオタイプな図式で一括りに論じることはできません。
対象地域を俯瞰しつつも、生業活動と生態環境との関わりを
「等身大」のスケールで捉える視点が必要です。

この講義では、まず、半乾燥地や砂漠化について
世間一般に知られている知識の誤りを紹介します。
例えば、「植林が砂漠化を助長する」や「半乾燥地であるサヘル地域には
水がいっぱいある」と聞いたらどう思われるでしょうか。
次いで、サヘル地域の砂質土壌の特性、伝統的な農耕技術の特徴、土壌と農法の組み合わせが
土壌侵食に及ぼす影響について説明します。

また、地域の人々により実施可能な砂漠化対処の方法も紹介します。
サヘルの土壌:砂質土壌は、生産性が低いと信じられています。
しかし、サヘル地域では、砂質土壌が主な農業生産の「場」です。
その理由は、「厚さ」にあります。
例えば、1.5mの土層は年降雨量の約半分(200mm)にも相当する
有効水(毛管孔隙に保持され重力により排除されない水)を保持できます。
特筆すべきは、地表から数十cmの土壌断面内にある無数の細粒質薄層です。
これが乾季の季節風による風食(風による侵食)を止める働きをします。
在来農法と土壌:サヘル地域では、「押し鍬」による除草耕が一般的です。
これは、土壌の表層数センチを撹乱し、
作物以外の草本を地際から切断するものですが、
上述の細粒質薄層の破壊を最小限に留める管理技術です。
また、この作業によりつくられる表層数cmのルーズな砂層は、
雨季の間は「砂マルチ」として土壌からの水分の蒸発を抑制します。

 砂漠化を抑制する技術の試み:
砂漠化対処条約(1994年)の締結から10年以上が経過していますが、
砂漠化の抑制に成功したというニュースは聞こえてきません。
インドの伝統農法の活用や風食を利用した砂漠化抑制技術の試みを紹介します。

3.参考図書
 砂漠化と関連しませんが、以下は、アフリカや地域支援の理解に参考となる文献です。
勝俣誠:アフリカは本当に貧しいのか−西アフリカで考えたこと−.朝日選書
服部正也:援助する国される国−アフリカが成長するために−.中央公論新社 


                            
                        SCET(環境技術支援センター)
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